2015/06/18(木)松尾流「人生の歩き方」 #2
放課後。
グラウンドには、野球部のかけ声が響いている。
初夏。昼に暖められた空気が、少しずつ冷えていき、街の風景がはっきりと見える。
そんな中を、俺は清水と共に家路についていた。
今日はシゲはバスケ部の助っ人に、佳織は部活があるとかで行ってしまっている。
「今日は二人だけか。って、初めてじゃないか」
「そういえばそうだね」
実は、清水とは今年のクラス替えの時に初めて知り合ったのである。
「すごくとけ込んでるから、全然そんな気がしないよ」
「そうかな?」
彼女には珍しく思案顔である。
「そうだよ」
語気を強めて言うと、少しうれしそうな顔をするが、すぐに戻ってしまう。
「でもね」
「ん?」
「やっぱり羨ましいよ。何か、お互いに分かってるって言う感じがするもの」
その一言に、はっと胸を突かれた気がした。
俺の気づかないうちに、疎外感を感じていたのかもしれない。
「そうだったのか……。悪かったな」
「そんな気にしなくていいんだよ。ただ、早くそんなふうになりたいだけだよ」
清水は自分が気まずくしてしまったかと思い、慌てて取り繕う。
「そうだな。それなら、まずはお互いのことを知らないと」
「うん」
「じゃぁ、何か聞いてもいいか?」
「いいよ」
そういえば、学校での清水は知っているが、家がどうなのかは知らないことに気づいた。
「清水って、何人家族なのか?」
「んと、だいたい50人ぐらいかな」
「50人? ここはアフリカの国々か?」
「ここは日本だよ?」
「そうじゃなくてだな……。まぁいいか。それで、家族構成は?」
「お父さんとお母さんと私かな」
「じゃぁ、3人家族じゃん」
「そうだね」
今日も絶妙な天然っぷりが発揮されているようだ。
それにしても少しおかしい気がしたが、無視して続ける。
「家は、マンション?」
「違うよ」
「一軒家?」
「そんな感じかな」
「へぇ、今度遊びに行ってもいいか?」
何気なく言った言葉だった。
「それはダメだよ!」
だが、その言葉は、今までの清水の表情を一転させていた。
緩から緊へと。
突然の叫びに驚いて、清水を見る。
その顔には紛れもなく恐怖が浮かんでいた。
「家に行くのそんなにダメだったか?」
「あ、全然そんなことはないんだけど……」
大声で拒否してしまったことでばつが悪いと感じたのか、目をそらす。
「お父さんがすごく厳しいの。だから、ごめんね」
「なるほど、それなら仕方がないか」
ひとまず、納得しておく。
「でも、そのお父さんってどんな感じの人なんだ?」
「ん……一言で言えば、『こふう』って言う感じかな」
「古風?」
「うん。昔の伝統とみたいなものとかしきたりとかを守って暮らす。みたいな」
「へぇ、頭堅いんだ」
「うん」
そうこうしているうちに、いつも分かれる交差点のところまで来てしまっていた。
「じゃぁ、また明日な」
「うん、またねー」
清水は手を振りながら帰って行った。