2016/01/09(土)松尾流「人生の歩き方」 #8




 ついに中間テストが終わった。
 しかし、あの一件以来、佳織の様子が少しおかしい気がする。


「よっしゃー! 今日で中間も終わりかぁ!」
 無意味に湧き起こる達成感に叫ぶ。
「そうだねー」
 後ろからも、暢気な声が上がる。
「ちゃんと出来たの?」
 佳織が冷静な質問をしてくる。
 が、もちろん気にしない。
「よし、どこかみんなで遊びに行こうぜ!」
 シゲが提案する。
「もち!」
「行きたいな」
 佳織の反応がない。
「佳織は行かないのか?」
「ん、あぁ、行くわよ」
 まるで、今まで聞いていなかったようである。
「風邪でもひいたか?」
「ひいてないわよ」
 その表情を見て、安心する。
「じゃぁ、今日は、ぱーっ行こう!」




 結局、流れとしては、ボウリングを2ゲームして、その後、カラオケをしようと言うことになった。
 まずはボウリング。
 シゲは、ボールを蹴ったり投げたりするのは得意だが、転がすのは得意ではない。
 一方、優花は、この間のリベンジだと勢い込んでいたが、力みすぎたのか、結局ボロボロであった。
 佳織は相変わらず苦手であるが、どことなく身が入っていない感じがする。
 カラオケになると、佳織のテンションの低さがはっきりと出てしまった。
 歌を歌うこともしないし、ノリが悪すぎる。
 さっさと切り上げて、解散することになった。




 解散した後、俺は明らかにいつもと違う佳織の様子が心配になり近くの公園まで連れて行って聞いてみることにした。
「佳織。どうしたんだ? 何かあったのか?」
 努めて柔らかい口調で聞いてみる。
「……」
 だが、ただ俯いているばかりで、何も言おうとしない。
「俺はおまえが心配なんだよ。黙ってるだけじゃ分からないじゃないか」
 何も言わない佳織に腹が立って、思わず口調が荒くなる。
 その声に、彼女の肩がびくりと震えた。
 数秒の間。
 口が小さく動く。
「お……ら……ない」
 声が小さすぎて、ほとんど聞こえない、
 だが次の瞬間、彼女は顔を上げて叫んだ。
「思い出しちゃったんだから仕方ないじゃない!」
 涙目である。
 俺は一瞬、トラウマになっていることを思い出したのかと思った。
 しかし、それは次に続く言葉で打ち消された。
「私はあなたのことが好きなのよ!」
 突然の告白に、頭が反応しきれない。
 思考が空回りして、完全にフリーズしてしまっている。
 何とか、我を取り戻して、出た言葉は、
「どうして?」
「実は、小学校の頃から、好きだったわ。でも、いつの間にか、幼なじみという枠の中にとらわれてしまって、その気持ちを封じこめてしまっていたの」
 そう言うと、彼女は俺の右手を両手で包み込み、
「でも、この間、一緒に帰った時に、思い出したのよ」
 一呼吸。
「あなたがやっぱり好きだってことを」
 もう疑いようがなかった。
 しかし、何にせよ。突然すぎる。
「ちょっと待った。落ち着いてくれ」
 どうしようか迷ったあげく。
「俺は、すぐには返事できないよ。今まで、そんな風に考えたことはなかったから」
「うん。待つから」
 あれだけ取り乱していたと言うのに、その言葉には全く揺るぎがない。逆に全てはき出してすっきりしたという感じだった。
 この辺りが芯が強くて切り替えが早い性格の現われなのだろうか。
 その後、俺は彼女を家まで送り、ぐるぐる回る思考のまま家に帰り着いた。
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