2016/05/14(土)【考察】なぜ「ハイスクール・フリート(はいふり)」は失敗したのか

今期の問題作と言っていいだろう「ハイスクール・フリート(はいふり)」であるが、どうしてこのような事になってしまったのか。
コンセプトと題材、そしてシナリオに焦点を絞って考察していきたい。

「ゆるいミリタリー系アニメ」

本作のコンセプトは「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」に代表される「ゆるいミリタリー系アニメ」だろう。女の子たちのほのぼのとした生活とミリタリー要素の熱さと力強さをうまく組み合わせることによって、とても素晴らしいアニメジャンルとなっている。

これらのアニメが成立するのに必要な条件について考えてみよう。
  • 女の子たちの日常的な場面が十分に描写され、キャラが掘り下げられている(ゆるい)
  • ペアやチームなどの結束とそれらの間での交流がある(ゆるい)
  • 兵器がSFチックになったりするなど実際の兵器と比べてかけ離れた状況になっていない(ミリタリー)
  • 上記を満たしたうえで、女の子たちが兵器を操作し戦う(ミリタリー)
  • 戦闘描写にも十分に力を入れ、迫力のある戦闘シーンを演出する(ミリタリー)
上記のような要件があると考えられるだろう。大事なのは「ゆるい要素」「ミリタリー要素」が両方揃わなければ期待されるようなアニメにはならないということだ。

戦艦という題材

戦艦とはどういうものだろうか。
一般的なイメージは、搭乗員が多く海上での任務時間が長いというようなものだろう。実際に調べてみると自衛隊のイージス艦などは100名規模の人員が乗っているらしい。戦艦大和だと3000人程度の人員が乗っていたそうだ。
これらのことを踏まえてミリタリー系として認められる最低の要件を上げていってみよう。
  • 1つの戦艦につき不自然ではない程度のキャラクターを乗せる。(要件1)
  • 比較的長期間の航海のストーリーを書く。(要件2)
  • 主要な役職についてモブ化しない。(要件3)

1つの戦艦につき不自然ではない程度のキャラクターを乗せる。

1つの戦艦をあまりに少ない人数で動かすのは不自然だ。はいふりの場合クラス艦という名目で30人程度のキャラクターがいるが、いくら自動化されていると言ってもこのくらいが限度であろう。

比較的長期間の航海のストーリーを書く。

戦艦というのは、一つの作戦について数ヶ月単位海上を航行するのが普通だ。戦闘においても、損傷箇所を適宜修復、放棄しながら航行を続けることが前提となっている。仮に短期間での戦闘をメインとすると、その部分を欠くことになる。

主要な役職についてモブ化しない。

仮にどこかの役職をモブ化してしまうと実際に船を動かしている感じが薄らいでしまい、「女の子たちが戦艦を操って戦う」という根幹部分が揺らぐことになる。

これらの要件を満たせば、「ゆるいミリタリー系アニメ」としての「ミリタリー要素」の要件を戦艦という題材に適用できたと言えるだろう。

ゆるい要素と組み合わせる

さて、上記の条件のもとでゆるい要素と組み合わせてみよう。まず明確な問題がある。

1つの戦艦に対してキャラクターの数が多くなりすぎる

(要件1)及び(要件3)によって1つの戦艦に対して30人規模のキャラクターをモブ無しで作る必要がある。
これでは2つの戦艦の編成を書こうとするだけで60人のキャラクターが必要となる。戦艦の戦闘は編成や陣形などが面白い要素の一つでもあるが、5つも戦艦を作るだけで150人のキャラクターが必要で、そんなもの作ったところで誰もキャラクターを覚えられるわけがない。

出力が1つしかない。

戦艦はいろいろな役職がうまく連携することによって運用されるものだ。チーム間の連携等は必須であり、そこにチームワークを描くことはできるだろう。しかしながら、そのチームワークの結果として生まれるものは一つの戦艦の動きでしかなく、それは戦闘面で艦隊の動きとは必ずしも連動しないことになる。

役職ごとのまとまりがはっきりしない

役職の割当というものは、あくまで能力等に応じたものであって、その間の交友関係によるものではない。その結果、空間的に同じ場所に配置されたとしても、その間の人間関係はあくまで役職上のつながりでしかない。
キャラクター間の友情を描くエピソードが十分にない限り、ゆるいアニメとしての女の子たちの生活を感じることはできないだろう。

船上生活にどう日常を感じさせるのか

船上生活というのは言うまでもなく特殊な環境である。この条件下で女の子たちの日常というものをいかに表現するのか。陸に降りることは(要件2)によりかなり機会が限られることになる。

以上の問題点をまとめると
  • 1つの戦艦に対してキャラクターの数が多くなりすぎる(問題点1)(要件1・3による要請)
  • 出力が一つしかない(問題点2)
  • 役職ごとのまとまりがはっきりしない(問題点3)
  • 船上生活でどう日常を感じさせるのか(問題点4)(要件2による要請)
これらの問題点を「ミリタリー要素」が要求する(要件1~3)を満たす形で解決する必要がある。また、問題点2及び3は「戦艦が題材」であることにより発生する根本的な問題である。

シナリオでいかに解決するか

問題点1:1つの戦艦に対してキャラクターの数が多くなりすぎる

解決策1-1:1つの戦艦だけはキャラクターをすべて作り、他の艦は主要な数人だけを書く

これはキャラクター爆発を起こさないために必須の解決策である。
しかし、これでは艦隊を編成したとしても戦艦同士でのチームワークの描写が描きにくく、非常に困難だろう。
この解決策を用いると必然的に「単艦による戦闘をメインにする」事になる。

また、この問題を別の方向に解決したものが「艦これ」であるとも言える。しかしながら、当然これは「ゆるいミリタリー系アニメ」としての要件を全く満たさない。

問題点2:出力が一つしかない

これは複数の艦を用意することができればある程度緩和できる問題である。しかしながら解決策1-1の結果、単艦を用意することしかできないためこの問題を解決することは困難だ。

問題点3:役職ごとのまとまりがはっきりしない

解決策3-1:キャラクター間の人間関係を構築する部分に時間を割く
この方法が困難ではあるがやれる筋であるともいえよう。ここがシナリオ原案者の腕の見せどころと言っても良い。

ここにおいて「ゆるいパート」と「戦闘パート」の配分や切り分けが重要となるわけであるが、ここで(問題点4)が立ちはだかる事となる。
また、この場合「キャラクターの掘り下げ」部分に時間を割く事になり、ミリタリー要素が少なからず犠牲になる。

解決策3-2:人間関係構築が終わったところからスタートする
この手法は「ガルパン」において採用された手法である。しかしながら、戦艦というものは国家レベルの兵器である以上、人間関係が先にあって役職が決まるわけではない。役職内で必ず仲良くなるわけでもなければ似た趣味のキャラクターが集まるわけではない以上、この手法を採択することはできないだろう。

では、(問題点4)について考えよう。これを解決することが解決策3-1の可否に関わる。

問題点4:船上生活でどう日常を感じさせるのか

解決策はない。船上生活に日常を感じさせる要素は微塵もない。感じられるのは戦闘がいつ起こってもおかしくない船上でのん気に騒いでいるアホな女の子たちであるということだけである。これによって連鎖的に(問題点3)も解決することは不可能だろう。

全く別な方向として、「定期的に陸に上る」設定をしたとすると、もはやそれは戦艦じゃなくていいのではないかという指摘を避けられない。


ここまでで、「戦艦を題材としたゆるいミリタリー系アニメ」の実現困難性について説明ができた。これらを踏まえると、このコンセプトを掲げた時点で失敗することは十分に予期できる。では、実際に「ハイスクール・フリート」がどうなったかについて評価していこう。

「ハイスクール・フリート」というアニメ

「ミリタリー要素」優先

はいふりは概ね「ミリタリー要素」を優先させてしまった形になっている。そういう意味では、キャラクターを無視して戦艦が動いているのを楽しめるそうにはある程度視聴ができる形になっているだろう。

キャラクターはシナリオの犠牲に

戦艦を使って戦闘を行うことを優先するあまり、世界観設定や行動選択などに理解できないレベルの問題が生じている。
具体的な例を挙げるとすると、「学園艦が反乱したと確認をする前に騒ぐ」「晴風が何故か外部と通信して弁解をしようとしない」「アクティブソナーでモールス信号を送るという主人公の指示」などがある。
キャラクターの掘り下げも殆ど行われないないに等しい。

シナリオは戦闘特化

戦艦の戦闘を優先することはシナリオ全体の設定にもかなりの影響を与えている。「4話、5話」において、ネズミのような生物が「人の精神状態に影響を与える」「計器に影響を与える」などのちからを持っているような設定が出てきている。これは「単艦での戦闘」や「戦艦同士の戦闘」などを引き起こすために用意されたものだろう。

「ゆるいパート」と「戦闘パート」の衝突

戦闘が始まるかとおもいきや「ゆるいパート」を挟んでくるなど、有効なテンポコントロールがなされているとは考えにくい。視聴者を振り落とすためにやっているのだろうか。この点については擁護ができない。

結論

「ハイスクール・フリート(はいふり)」は「ガルパン」を目指したが、「戦艦」を題材としたためそもそもそれは非常に困難であった。テンポコントロールの失敗やキャラクターが犠牲となり、問題作になると至った。

補足

これを書くにあたって様々な要件を検討した、すると「戦車」という題材であったからこそ「ガルパン」はガルパンたりえたのだということがハッキリとわかった。
ガルパンはいいぞ。
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