2015/09/19(土)松尾流「人生の歩き方」 #4




 週末。
 街には紙袋やレジ袋などを山ほど持った幸介がいた。
「何でこうなってるんだ?」




「明日、一緒に遊びに行かない?」
 佳織が少し首を傾けつつ聞いてくる。
 金曜日の放課後。
 明日は第2土曜なので、休みである。
 公立の学校では週休二日なのかもしれないが、この学校は第2・第4土曜日以外の土曜日は学校があるのだ。
「どうせ荷物持ちだろう?」
 こいつの魂胆など分かり切っている。
 案の定、佳織は頭をかきながら、
「ばれちゃったかー」
 などと言っている。
「とにかく、俺は荷物持ちだけなんじゃ行かないからな」
「分かってるわよ。ちゃんとその分の借りは返すから」
「どうやってだよ」
「……」
 どうやらそこまで考えていなかったらしい。
「何も考えてないなら言うなよ」
「うぅ。とにかくちゃんと返すから来なさいよ!」
 なぜかキレられる俺。
 と、ちょうどそこに優花が来た。
 なぜ、清水を名前で呼んでいるかというと、
 (いつまでも、名字じゃなくて、名前を呼んでください)
 と言うことだそうだ。
「どうかしたかな?」
 と、佳織は今さっきまでの表情はどうしたのか、平常に戻って、
「明日遊びに行こうかって話してたとこ」
 とたん、優花の目が輝く。
「本当! 行きたいな!」
 佳織はこちらを振り返って、にやりと笑う。
 自分の形勢の悪さを知り、シゲに助けを求める。
「明日遊びに行かないか?」
 が、
「俺パスな」
 あまりにも、素っ気ない。
 俺の表情から、どんな状態にあるのか瞬時に判断したのだろう。
 耳もとで、
「すまん。今度ラーメンおごってやるから」
 と言って、我先にと帰っていった。




 そんな訳で、今のこの状態があるのだ。
「ってか、おい! 少しは持ってくれよ!」
 鍛えているとはいえ、さすがにこの量はきつくなってきた。
「いいじゃない。男でしょう?」
「いや、さすがに限度があるだろ!」
「これぐらいで精一杯なのかな……」
 優花が、残念そうな表情をして言う。
 そう言われると、男というものは馬鹿だ。もう少しがんばろうかと思ってしまう。
「……まだ大丈夫だけど」
「よし、じゃぁ、次行くわよ」
「はいはい」





 その後、また何件か回った後、せっかくだから、ボウリングをして帰ろうかと言うことになった。
 自分のレーンの席に座って、くつろぐ。
 今まで荷物を持ち上げ続けていた腕を伸ばして、少し生き返った気がした。
「ふぅ、佳織からだぞ」
「……うん」
 と言って、ボールを構える姿は、どう見ても危なっかしい。
「重すぎるんじゃないか?」
 と言って、手に持っているボールを奪い取る。
 9ポンド。妥当なところである。
「ひとまず、1ポンド下げてみたらどうだ?」
「分かった」
 一旦9ポンドのボールを戻し、8ポンドのボールを持ってくる。
 少しはましになったようだ。
 次は、優花の番だ。
 彼女の持ってきたボールは10ポンド。
 (小柄な彼女にしては、少し重いのでは……。)
 と、思った俺の不安を打ち消すかのように、1発でストライクを決めてしまった。
「うまいわね」
「うん。ボウリングは昔からうまいの」
「いいなぁ」
 佳織は昔からボウリングが苦手なのだ。
 俺は、疲れはあるものの、やれるところまでがんばろうと思っていた。


 スコア争いは、必然的に優花と俺の二人になる。
 別に、競う必要はないのであるが、やはり、ボウリングというものは競ってこそである。
 一進一退の攻防が続き、ついに10投目。
 優花が先だ。
 今まで見たことがないほどの集中力を見せる。
 まるで別人のようだ。
 結果はターキーでスコアが58本差になる。
 この差をひっくり返すには、ターキーを仕返すしかない。
 気持ちを集中させて、一点をねらう。
 まず1投目。
 ここは順当にストライク。
 しかし、ここで喜んではいられない。
 後、2つ。
 焦る気持ちを抑えて、
 2投目。
 ここも、何とかストライク。
 1本が残りそうになったので焦った。
 残るは後ひとつ。
 もう俺には、ピンしか見えてはいなかった――


 結局、俺は3投目もストライクも出して、2本差で優花に勝つことが出来た。
 しかし、それからというもの、優花がリベンジをしたがるので困る。
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